コラム

  • 白と黒 <2018/11/16更新>

    その3

     小学校に入る前、わたしの12色のクレヨンには黒の色がありませんでした。祖母が、小さいうちは黒いクレヨンは使っちゃいけないと言って、取り上げてしまったのです。

     私は祖母に抗議しました。だって、髪の毛は黒いでしょう。地面も黒いし、犬やネコにも黒い毛が生えています。

     

     ふくれている私に、祖母はいいました。「髪の毛は本当に黒いかい?クレヨンと同じ色かい?」「地面も黒いかい、それに晴れているときと雨の日では違う色じゃないかい」

     

     「いろんな色を全部まぜると黒くなるんだよ」ともいいました。でも、どんなにまぜても黒になりません。もう半分以上べそをかいている私に、祖母はあねさまのぬりえを染めてくれました。髪の毛はもちろん黒は使いません。黄色や赤や緑や、本当に全部の色を使っていたようでした。

     

     きれいでした。すてきでした。でも。でも・・・。髪の毛は黒くはありませんでした。

     

    「ありがとう」といった私の心の中を読み取ったのか、その後いつのまにか黒のクレヨンが私のところに戻ってきました。

     

     大学生になり、美術館ばかりめぐっていた時がありました。すばらしい絵をたくさん堪能しました。そんなとき、ふと心に浮かぶのは、おばあちゃんに塗ってもらったあのあねさまのぬりえでした。子供は大人の絵をマネしちゃいけないと言って、絶対に絵を描いてくれなかった祖母のたった1枚の「絵」でした。